夏休みの友夏休みの友装備は虫かごと虫取り網。 出撃時間は、ラジオ体操が始まる一時間前。 朝もや漂う森の中が―戦場だった。 前日の夜に塗った樹液の目印を確認するように、 自分の数倍は生きている巨大へと忍び足で近寄る。 胸躍る、その一瞬。 しかし、標的の姿は住々にして見えず。 朝一番に、口から漏れるはのろいの声。 あきらめきれずに、近隣の樹木を物色する。 刻一刻と近づくラジオ体操の時間に 追い立てられるように、小走りから、駆け足へ。 そして―ようやく見付けた目当ての獲物。 伸ばした虫取り網にキラキラと輝く宝石が収まるその瞬間、 昂ぶる心に、夏の記憶がしっかりと刻まれる。 そして、今。 森は消え、虫取り網と虫かごも、 少年たちの標準装備ではなくなった。 だけど、彼らの昂ぶる心は消えてはいない。 戦うべき相手と、戦うべき場所は、 形を変えて、町の中の至る場所に出現したのだ。 筐体の中の擬似空間へと、凝固されら形で。 時代が代わり、時が移ろいでも。 夏の記憶は少年たちの魂に、しっかりと刻まれ続ける。 まぶしく光を放つ、かけがえの無い時間として。 アルカディア 05年10月 筐体百景 |